ダイニングテーブルの椅子に座り
入れたてのコーヒーの香りを楽しみながら
僕はノートパソコンのキーボードを叩く
僕の仕事
仕事と呼べるかの判断は 別として
ニュースのネット記事を書いて お小遣い程度の単価で
それを書いてもらう
ウェブライターと書けば 聞こえはいいが
本を書くことを生業にしたかった 本人からみると
嗚咽が出るような思いだ
僕は アスリートの記事を主に担当していて
今 書いているのは みんなの頭の片隅に残っているだろうか
つい最近行われた 東京五輪の出場を目指していた
アスリートの今現在に関する記事だ
何故 僕が アスリートの記事を書くことにしたかを
書くと 余計な感情が邪魔をしてしまい 良い記事にならないと
思うので
敢えて言うなら
たった1秒 たった1センチ
1位と2位の差は大きい
されどその1秒を
掛けて
目標に向かって流した汗は 共にとても 美しい
ある程度の記事を書き終えた所で
僕は給湯器の電源を押し お湯を張る
買い物に先ほど出た後
帰って来て直ぐにシャワーは浴びたが
寝る前に10分間ほど 身体を温めてから寝るのが
幼い頃からの習慣
田舎に住んでいた時に 僕を育ててくれた婆ちゃんが
必ずそうしていた
そんな事すっかり忘れて
東京で5年以上過ごしてきていて こないだの
婆ちゃんの3周忌の時のそれを思い出し
それからは 毎日の日課になっている
原稿を読み直し
後は 締めの言葉を湯船につかりながら
そのアスリートの姿を思い浮かべ 文字にする
今日のお湯はなんだか いつもよりも
暖かい
今日は日中 大学の先輩に誘ってもらった
引っ越しの手伝いをしてきたから
体が疲れているのだろうか
少し ウトウトとしそうだ
次の瞬間
僕は高速道路の高架下のバス停で バスを待っていた
数秒後に現れたバスに乗ると
乗客は誰もおらず 行先は
通っていた大学の最寄り駅が書かれていた
しばらく走る
見慣れた街並みの中 人は誰もおらず
バスは駅のロータリーを通り越していった
知らない道並みを走り
ポツンと立った次のバス停で
初老の男性が乗って来た
その男性は バスの料金を車掌の横の箱に入れ
僕の座っている席の真横に立ち 手すりにつかまった
顔を覗き込むも 見たことの無い顔
体系はぼんやりとしていてわからず
髪の毛はふさふさしていた
そのまま しばらく走ると
バスは川沿いを走っていた
男性は 先ほど覗き込んだ顔とは違くなり
どこか ぼんやりとだが 見覚えのある顔に思えてきた
思い出そうとしても思い出せない
その時男性が こう言った
「商売をやっていて 例えば 洋服を売りたくて
有名なインフルエンサーに お金を払い その洋服を着たインスタを上げてもらい
その洋服を流行らせる
何故なら 誰も見たことが無い物は 誰にも買われない
だから広告と同じで インフルエンサーに頼む
今は れっきとした これは商売の形
だから その業界で 有名で権力もある人にお金を払い
代表選手が着る コスチュームの受注を受ける
これは汚職収賄だと言われた
君もそう思うかい?
そう思うのなら バスを止める停車ボタンを押して欲しい
私は次のバス停で降りて 罪を償って来る
君はどう思う? 」
なんの事だか この初老の男性が何を言いたいのか
頭が 混乱してきた
ぼんやりとしていて あまりしっくりは来なかった
でも 僕は バスの停車ボタンに手をかけた
その時
給湯器のリモコンが 10分を知らせるメロディーを鳴らした
暖まった体で書いた 今回の記事の 締めの言葉は
アスリートの勝負に 後悔はあり得ない
何故なら 届かなかった指先は その一瞬
次の勝負で届いても それは次の勝負
だから オリンピックで観た 一瞬一瞬 全てが美しい



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