今年の夏も うちの会社は 長期休暇は無し
冬もカレンダー通りの いわゆるブラック
暑い中 地道に歩いて 一軒一軒 インターホンを押すのが
大抵の仕事
押したところで 出て来て話を聞いてくれる人なんて
100回に1回程度
しかも 今 ノルマが課せられてる商品は
この時期に 確実に不向きな 窓用洗剤
一日に一つ売れる事が 2日続いたら
それを 僕らは マイアミの奇跡と呼んでいる
しかも この時代 愚痴や不満をぶちまける
飲み会も出来ないから
くたくたになったまま 4畳半のアパートに帰る
玄関のカギを 回し
扉を開けると
ふわっと どこからか 味噌汁の匂いがした
ふと 玄関横のキッチンを見ると 昨日食べた カップ麺のゴミがそのまま
なんだ これの 匂いか
大学を卒業後
彼女もいないまま 仕事を転々として
もうすでに38歳
両親共に 他界してるから 身寄りも無いし
帰る場所も無い
天涯孤独
帰って来て まずは 冷蔵庫から 偽ビールを取り出し
一気に喉を 潤す
スーツのジャケットを ハンガーにかけ
脱いだ靴下と ワイシャツを ランドリーバックに投げ込む
アパートの住人も ほぼ似たような環境で過ごしてるから
この時期でも 隣のテレビの音は 無料で聞ける
静かすぎて 頭が空っぽになってしまうのが 怖いから
こんな具合が丁度いい
エアコンは去年の夏に 壊れたまま
開けっ放しにしてきた玄関扉と
開いた吐き出しの窓を結んだ線が 冷気の通り道
そこに置かれた座椅子に 座りぼんやりと暗い 何も見えない外を眺め
また ビールを飲む
毎日のルーティーンが これの男に
彼女が出来る訳が無い
また ぷーんと 味噌汁の匂い
隣の交通誘導員のおじさんが買ってきた弁当と
100均の味噌汁でも食べているのだろう
大概の1日は このまま 終わる
一本だけのビールが この体を支えるエネルギー
買ってくるにもこれだけ長い間 コンビニの弁当を食べて来てれば
そりゃ飽きる
今の時代は テイクアウトも盛んで 運んでくれるサービスなどもあるけど
余計な出費をするほど 余裕は無いし
もう少し早いピッチでお金を貯めないと
預けている遺骨と自分の埋まる場所が 作れないまま終わってしまう
まっ その後 誰もいないから
別にそれはそれで 良いのかもしれないが
ただ 預けたままの両親を せめて 迎えに行って
こんな くだらない人生を送ったことを 謝りたい
この年になっても この時期 子供の頃に
父と川で 魚を釣ってその場で焼いて 食べた事を思い出す
父はとても魚釣りの上手い人で
日曜日には よく家族3人で 川に釣りに行った
母は 魚のぬめぬめ感が 嫌いだからと
焼きあがった魚に塩を振って 食べるのが専門
小骨は栄養はあるけど 喉に刺さったら 苦しいから
気を付けて食べなさいって 良く言ってた
もう何年も 線香をあげてない
怒ってるだろうな
孫の顔を見るのが楽しみだって キラキラしてた高校生の時によく言われた
あの頃が人生で 一番の モテキだったのかも
って言っても 初めてできた彼女が人生で最後の彼女だけど
一瞬
蛍光灯の電気が 消えた
流石に20年以上 使ってると
中の接触も良く無いのか 最近よく消える
一瞬の真っ暗闇の中
風の通り道に 物凄い 冷たい冷気が流れ込んで
額から零れ落ちた 飲んだビールが
サッと引いた
今年の夏も そろそろ終わる
来年も きっとそう思う
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