こんな 都心から離れた町でも
この日だけは 煌びやかにライトアップされ
人々は どこか楽し気に鼻歌を歌う
早くに両親を無くして
大学に進学するために この街に来て
もう3年
昼間は学校と コンビニのバイト
一年に一回だけ 駅前でこのバイトをする
ノルマは30個のホールケーキを売る事
一日で30個のケーキを売れば
一週間 コンビニのバイトをしたのと同じだけの
バイト代を稼げるから
この街に来た最初の年から
駅前で足をあらわにし ミニのサンタコスをして
大学進学の為にした借金のお金を稼ぐ
今年は夕方の売れ行きは良くて
残りは後 9個
この街からは離れた都心にある有名なケーキ屋さんのケーキで
ここらのケーキ屋さんのケーキよりも
数千円高いが 「 有名な 」
って言うだけで ここら辺では大抵 毎年売り切る事が出来る
駅に最後の電車が来た時
残っていたケーキはまだ 8個
そこに 背の高い大き目のリュックを背負った
ハーフなのか 外人さんなのか
少しだけカタコトな日本語をしゃべる 男性が来て
ホールケーキを7箱買ってくれた
「 Wish Santa Claus will come to you too 」
って 小さな 優しい声で言いながら
それと同時に白い軽がロータリーに入って来て
売り上げのお金と引き換えに バイト代の入った封筒を渡しに
お店の人が来て
そのバイト代の中から 一箱分のケーキ代を渡し
3階建ての木造アパートへ帰る
部屋の玄関を開け
まだ暖まっていない炬燵に体を全部忍ばせ
少しの間 天井を見上げる
赤く光った 炬燵の温度では
冷え切った体は 全く暖まらない
重い身体を上げ 一年に一度 この日だけ
お風呂にお湯を貯める為に ユニットバスのドアを開けた
給湯器の電源を入れ
しばらく出した水で手を洗い うがいをし
暖かくなってきた水を 風呂に流す
そのまま 来ていた サンタを脱ぎ捨て
バスタオルを一枚 扉にぶら下げ
お風呂につかる
体育座りをしている踝付近まで お湯が貯まって来た時
どこかでインターホンがなる
慌てて 立ち上がり
ユニットの扉を開けようとした時
大き目な 「メリークリスマス 」の声が聞こえた
上の階に住む アメリカ人のお友達が来たみたいだ
このアパートは 意味の無いオートロックシステムで
玄関だけは立派だけど
隣の廊下から 普通に乗り越えて入って来れるシステムになっている
ただ その弊害で
その立派な 玄関扉についているインターホンを鳴らすと
壁の薄さからか
全部の部屋にその音が響き渡り
音だけでは来客を判断できず ランプの灯りだけが
頼りになる
再び体育座りで体を風呂の中に沈め
ふくらはぎぐらいまで来たところで
お湯を止める
足を崩し
一日中立っていた 足を軽く揉む
上の階から流れてくるテイラースイフトの歌を
聞きながら 少しだけ目を閉じる
「 コンっ 」
「 コツンっ 」
どこかから音が聞こえる
風が強くて 掃き出しの窓に 木の枝でも当たっているのか
目を閉じたまま
その音が少し心地よくて
ほんの少しだけ 夢を見た
私が慌てて バスタオルを巻き
掃き出しの窓を空けると
二階のベランダの外に ソリを引いてトナカイが数匹
「サンタが待ってるから 早く」
って ソリに私を促し
そのまま まるでシンデレラが住むような お城に連れていかれ
見たことも無いような御馳走を前に
イケメンのサンタクロースに
手にキスをされ
沢山の欲しい物が 山ほど入った部屋のキーを渡される
「コツンっ」
現実と夢がごっちゃになったのか
私は急いで バスタオルを体に巻き
掃き出しの窓に向かった
少し濡れた髪の毛を拭きながら
そっとカーテンの隙間から 外のトナカイを探す
あの 無駄に立派な玄関の所に
目出し帽をかぶった人物が 数人見えた
窓からひんやりと伝わって来る寒さからか
ハッと現実に戻り 急いでパジャマを着る
また
「コツン 」
小さな石ころか何かを 窓に投げてきている
私がもう一度 カーテンの隙間から 外をそっと見る
小石を投げていた目出し帽の男性が 何かの合図をすると
一斉に部屋のインターホンが鳴った
窓の外にいた 男性はそこからは見えなくなっていた
数秒後
上の階から流れていた ブルーノマーズの歌声が
搔き消されるぐらいの悲鳴と共に
まるで映画館にいると錯覚するような銃声が響いた
何が起きているのか 全然わからず
ただただ 怯えていた私は
せっかく温めた体を台無しにするように
ベランダに飛び出し 外に置いてある
小さな洗濯機の横にしゃがみ込んだ
数秒後
上の階の音が聞こえなくなり
階段を駆け下りてくると同時に
全ての玄関に向けて発砲していく音が聞こえる
洗濯機に身を委ねながら
自分の部屋の玄関扉がぶち破られ
中に土足で入り込んできている音が聞こえる
しゃがみ込んだまま 足と手を結び
組体操さながら 貝のように閉じこまっていた
掃き出しの窓が 開いている事に気が付いた
その何者かは 何故か
そのまま外に出て行った
目を開ける事も 起き上がる事も出来ずにいる私
うめき声だけがアパートの玄関扉の方から聞こえ
ドサッドサッと 誰かがアスファルトに座っている音だけが聞こえる
どこからかは 水か何かを流している音
ガサガサと アパートの周りを回る音
誰かが 小さめの声で
叫ぶ
一斉に聞こえた 7発の銃声
ドサッと 何か重い物が倒れる鈍い音
とても目を開ける事などできない
どこか遠くの方で聞こえる
サイレン
それとは違う タイヤを滑らせ アパートまでの道のりを
飛ばす車のエンジン音
まるで全てが鮮明に見えているように感じる
何かを引きずる音が聞こえ
数人が会話をしている所に
少し大きめの車であろう 重い音のするエンジン音がアパートの前へ
響き渡り
シュポッ
と 一瞬 暖かくなるような音が聞こえた
その瞬間 聞こえた
「 merry Christmas 」
少し悲しそうで 優しい声
その瞬間
あれだけ冷え切っていた体が 一瞬で熱く感じ
勢いよく立ち上がり目を開いた
まるで子供の頃に 両親と行った
キャンプファイヤーのような炎が立ち上がり
綺麗に暖かい 橙色の火が
アパートを包んでいた
何が起きたのかも
何があったのかも
何もわからないまま
ただただ 炬燵の上のリュックを拾い
玄関でサンダルだけを履き
立派な玄関扉まで走った
そこには
火のついた 山積みにされた物と
脱ぎ捨てられた7つの目出し帽が落ちていた
その目出し帽の横に置いてあった見覚えのある箱
辺りが火の渦なのに
どうしてもそれが 気になり
その箱を手に取る
I’ll make it up to you
と書かれたケーキの空き箱には
The future is in your hands, the outcome is up to you
と書かれた封筒に入った
私の学生証とパスポートが入っていた
近づいて来たサイレンの音と共に
その箱を火の渦に投げ込み
少し重くなったリュックをしっかりと背負い
誰もいない夜中の暗い道をひたすら走った
ただただ
暗闇だけが見える目の前に
浮かんだ公園の公衆電話ボックス
寒すぎて 凍える体を少しでも温めたくて
中に入り
しゃがみ込んだ
何が起きて 何がどうなったのかも
全く分からない
冷静に考える事も出来ない
ただ そこにしゃがみ込んだまま
聞こえるサイレンと 夜を明かした
辺りが明るくなってきたころ
リュックから携帯を取り出そうと
背負ってたリュックを肩から降ろすと
リュックの中には 見た事も無い
自分の物では無い
生まれて初めてもらった サンタクロースからの
クリスマスプレゼントが入っていた
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