僕が昔 母親と２人で 住んでいたアパートから
学校までは歩いて１０分程度
アパートを出て ひたすら真っすぐな坂道を登り
一本だけ 大きな家の 路地を左に曲がる
その家は 大きな敷地に建っていて
四角く作られた学校の 丁度角
その路地を 抜けると 直ぐに学校の正門
小学校に上がる前は
お金が無い事を理由に 幼稚園にはいかず
毎日 母親の仕事に歩いてついて行っていた
その頃 この国では
ハンバーガーなんて物が上陸して
マクドナルドって 言葉を始めて聞いた時代
僕は母親の手に引っ張られ
その角を 曲がる時に
毎回 あの角に 黒いもやもやとしてる物があるよって
母親に言っていた
手を繋いだまんま その角まで行き
何も無いじゃない僕ちゃんって
いっつも ニコニコ僕に言っていた
小学校に上がり 一人で通っているときも
僕には その角に
黒い もやもやとした 大きなものが
ほんの少し動いたり じっとしているのが見えていた
僕が高校生になった頃
家に帰らなくなった 母親に置手紙をして
この街を離れてから もう数十年
その道を通って 学校に通っていたことを忘れていた
会社から帰宅して ネクタイを緩めて 冷蔵庫のビールを
グイっと飲むような 日々を過ごしていたある日
帰って来て いつものようにネクタイを緩め
缶ビールを冷蔵庫から取り出して
テレビの電源を入れると
始ったニュース番組に 見覚えのある街並みが流れた
あの大きな敷地の曲がり角に
植えられた一本の大木の下から 無数の人骨が発見された
所有者が街にあの土地を売り
小学校の屋上にあった古くなったプールの代替え地として
工事に着手し 土壌改良の為に 掘った土の中から
その昔 街の教会であった この家の 土地から
大量の骨が 発見された
ニュースは瞬く間に 広がり 様々な憶測が飛び交う
大量殺人 一家心中 政府の陰謀論
でも その時代から 取りためたDNAの材料は乏しく
当時の牧師もすでに消息が分からない為
次第に過熱感は無くなり
報道番組で 見る事も無くなってから しばらくが立ち
たまたま 会社の出張で
その街を訪れる機会が出来たので
僕は あの曲道に 行ってみた
僕らが住んでいた アパートは取り壊され
今は マンションが立っていて
通っていた道も 道路が拡張され 歩道も作られていた
坂道を登り切り
あの角に視線をやると
すでにブロック塀は無く
辺り一面 何も無い平地
学校の校舎がそこから見えた
その角に 僕が幼い頃見ていた
黒いもやもやとした物は もう見えず
裏側から見た校舎の壁に付けられた 窓ガラスの配置が
まるで 大きな十字架に見えた
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