翌日
看護師さんに起こされ 検温し 飽和濃度の計測をして
通常値に戻っていることを確認したあと
朝食の為に 同じフロア内の 食堂に向かった
看護師さんが 運んできてくれた 食事を食べながら
ふと お見舞いに来た人の待合室で流れてるテレビを見た
硝子に囲まれた待合室の音は まるで聞こえないが
流れているニュースは
御嶽山の麓で 3か月前に発見された 白骨遺体の身元が判明
遺体の身元は ○○市の 駅前で中華屋を営んでいた 高橋さんと判明
高橋さんは 一人暮らしで 遺体は死後9か月以上経っていたと
死因は現在 詳しく調べている所だが 頭蓋骨に殴打の後が残っているので
何者かに 後頭部を殴打された 他殺の可能性が高いと 警察署からの情報です。
と
朝食を食べ終え
気になる事は沢山あるし 聞きたいことも沢山あったが
医師の検査を済ませ 母親と退院の手続きをし終わった頃には
すでに 時刻は夕方の4時になっていた
家に戻る途中に
母親に話を聞くと
店の付近はまだ 封鎖されていて
誰も入らしてもらえていないらしいと。
凪君が あの後無事に帰ってたのか 今 どうしているかもわからない
ましてやリーさんも 。
ただ 退院したら 電話をかけて欲しいと あの時の警察官から
電話番号を渡されているから 家に着いて ゆっくりして落ち着いてから
かければ良いんじゃない 。
団地の階段を上り
玄関を開け リビングの椅子に座った
何か起きるのではないかと 不意に落ちる恐怖からの安堵
不意に 弟たちが 足にしがみ付いてきた
母親の作ってくれた ご飯を 味噌汁で喉に流し込んだ時
父が付けたテレビから ニュースが流れた
「 十八八百屋事件の 速報です 。 八百屋から持ち去られた物が判明。
窃盗の被害に遭ったものは 1909年に製造され 現在 地球上には この一台しか存在しないと
言われている ハーレーダビッドソンの Vツインモーター搭載モデル サイレントグレーフェローと呼ばれている、旧車のハーレーダビッドソンで。 オークションサイトなどで出品されたら、数億の値が付くかもしれないと言う代物。 ハーレーダビッドソン社が 会社として世に出した初Vツインモーターバイクでマニアの間では、神の産物とまで 言われている。 このバイクが 十八店に置いてあった経緯は未だ不明ですが、この盗難されたバイクを、コンテナ船に積み込もうとしていた、住所職業不定のベトナム国籍の男を検挙し、十八八百屋店 連続殺人事件の関与も今後も捜査していくとの、、、」
ハーレー 。 あの開かずの扉の向こうにあったのは
ハーレーダビッドソンだったんだ。 それを 盗むために強盗に入り、社長達を。
捕まったベトナム国籍の男って。
もしかして リーさんか 。
気が気で無くなった僕は 誰もいない子供部屋に入り
母親から渡されていたあの警察官の携帯番号をダイヤルした。
「田中ですが。」
。。。。
電話で色々聞きたかったが、警察官にいわれたことは
今から 十八八百屋に来て 確認してもらいたいことがある。
警察車両を自宅に向かわせるから、その車に乗って直ぐに来て欲しいと言われた。
何もこちらからの話は聞かずに。
ただ、起きた出来事をぼんやりと考えてるうちに、直ぐに自宅のインターホンが鳴った。
パトカーは近くに待機していたらしい。
待機? それとも 監視していたのか?
乗り込んだパトカーに あの警察官はおらず。
お巡りさんが2人。
このまま凪の家にも寄って、それから店に向かうと言われ、ハッとした。
自分はあの後入院してしまうほどショックを受けたけど、凪はもっと長くあの家族と付き合っていた
そのショックは計り知れない。
今 凪はどんな状況なのだろうか 。
凪の住む アパートの前にパトカーを止めると
玄関から凪が顔を出し、いつものパーカーを被りパトカーに乗り込んできた。
「凪君。。」
一言も口も聞かず、目も合わせない。
数分後店の前に着くと、あたりは騒然としていた。
防波線には相当数のカメラと記者、野次馬。
パトカーから降りる僕らが写真に写らぬように、大きなブルーシートで道路を囲った。
店の中に入ると、あの警察官が立っていたが、店は仕事をしていた時と
それほど変わりも無く、血痕などは綺麗にふき取られていた。
警察手帳を見せ、直ぐに一枚の写真を取り出した。
「この人物に見覚えあるかな?」
凪もきっとそうだと思っていた。凪はなんて言うんだろう?
凪が一緒で良かった。なんて勝手に想像していた。
僕はリーさんの写真を見せられると思っていたから。
でも見せられたのは
あのびっこを引いた老人の写真だった。
そう、死んで白骨遺体となって出てきた老人の。
「はい。知ってます。よく野菜を買いに来る三つ隣駅で中華屋さんを営んでいる高橋さんです」
凪は平然と答えた。
「だよね。 じゃあ この写真は?」
僕も凪も 全く見覚えのない顔写真で 一瞬躊躇したが。
「知りません。お客さんで来たことがあったとしても、この店こう見えて、かなりの数のお客さんが来るので、馴染みの方以外は覚えてません」
凪が理路整然と答える。
「そっか~ だよね。この二枚目の写真に写ってる初老の男性が、三つ隣駅で中華屋さんを経営していた高橋さん。一枚目の写真の男性はびっこ引いて無かった?」
あっ。確かにびっこ引いてた。
「はい。数か月前に足を挫いてそれが未だに治らないと言って、右足を引きずっていました」
凪が言い終わる前に
その刑事は携帯を取り出し
「一課長。間違いありません。高橋さん殺人事件と十八八百屋連続殺人事件の容疑者で、ベトナム人のチャン・ホイを全国指名手配してください。それとベトナム警察と連携を取って、人身売買の容疑も視野に、海外逃亡の恐れもある事からインターポールにも大至急連絡を。特殊メイクの技術者イーサンの妻、イーサン・ハンが作ったマスクを被ったまま逃走している可能性もある事から、顔に騙されるなと。中国警察と打ち合った時に浴びた右足の傷はまだ癒えておらず、右足をかばってびっこを引いて歩いてる可能性が高いから、まずは駅、空港のカメラでびっこを引いた人物を全て洗ってください」
刑事は携帯を顎ではさみながら
また一枚の写真を出した。
リーさんだ。
ぎょっとした2人の雰囲気を察したその刑事は
「後、今日逮捕した、イーサン・ユーチンがここでリー・サムと名乗って働いていた事も間違いなさそうです。やはりハーレーダビッドソンの情報源はイーサンで間違いないと思います。自分も至急、署に戻るので緊急逮捕の準備をお願いします」
「このベトナム人は どこに住んでるって言ってたか聞いた? 」
その刑事は
胸に付けたマイクで部下に指示を送りながら、鋭い眼光をこちらに向けた。
「僕は聞いてません」
凪はまたしても整然と答える。
「えっと~ 確か隣駅で5人ぐらいで一緒に住んでるって」
「他には? アパート?マンション? 」
「えっ 。 確かここの段ボール置き場ぐらいの広さしか無いって」
「各所に次ぐ。隣駅の飲食店を大至急当たってくれ。特に2階に怪しいスペースが無いか要確認。
2畳ぐらいの屋根裏、デッドスペースに組織の隠れ家を作ってる可能性が高い。そこに、チャンに繋がる何かがあるかもしれない、大至急、急げ」
近隣から一斉に サイレンが鳴り響き、隣駅の方に向かって消えて行った。
そのままの勢いで、その刑事も外に出そうだったが、席を立ちその刑事の前に立ちはだかった凪が
「なんで、リーさんの事わかったんですか? 何か調べてたんですか? 」
立ち止まった刑事は
「十八の社長からその件は家族以外の者に言うなって言われてたけど、聞きたいなら教えてやる。
数日前に警察に十八の奥さんが来て、もしかした客に紛れてカゴからお金を窃盗してる輩が居るかもしれないって相談があったんだ。 月に数十万も無くなっているから、ちょっと調べて欲しいと。
ただ、「うちは家族経営だし、バイトの子達は3人ともそんな事絶対にするような子たちじゃないのは、社長も息子も娘も、私だって知ってるからって。バイトの子達が悪い気しないように、こっそりと調べて貰えない」かって。 それで、婦人警官を客に変装させてこの数日、潜入捜査していたんだ。
そこで、インターポールから送られてきたベトナム人にそっくりな男が働いていることがわかった。
その男、イーサン・ユーチンは チャンにベトナムで買われて、幼い頃から窃盗やら強盗、殺人、潜伏、ありとあらゆる事をやらされていた。でも幼い頃、親に金で売られたイーサンは、チャンの言うがままに生きる道しか無かった。
カゴからお金が無くなってることに気が付いた奥さんが、3人の従業員を疑わずに警察に依頼してしまった事を知ったイーサンは、深く潜伏して調べもついていないのに、行動に出てしまった。
イーサンは片岡君がお金をカゴから抜いているのを知っていた。
捜査が進み、従業員の仕業だとわかったら、偽名で潜伏してる自分も怪しまれてしまうから。
それで、中途半端な犯罪を犯そうと思って行動に出た事で、毎日4人で市場に行っていると聞いていたのに、当日 その日は社長と若旦那の2人で市場へ。奥さんと若奥さんは、若奥さんが産気づいて部屋で寝ていた。
その若奥さんの容体が気が気じゃない息子の様子を察した、社長が仕入れを早めに切り上げてきたから
、偶然 4人が4人とも窃盗グループと遭遇してしまった。
でも、良いのか悪いのか、世の中に神様がいるのかいないか。
俺なんかには計り知れないが、息子さんの一命はとりとめた。今でも危険な状態だが、きっと大丈夫だろうと医者は言ってる。一人だけ生き残ってでも生きる理由があるから。
刺された箇所が奇跡的に腹部を避けていたので、病院でお腹の子だけはなんとか取り出すことが出来て、今は父親の隣で寝てるはずだ。
病院に運ばれた、十八の社長が死ぬ前に一筆書かされたよ。凪を絶対に捕まえないって。
凪が取っていたのは、社長が凪に与えたお小遣いだからって。社長は知ってたんだ。 君がカゴからお金を取っていることを。でも、家族にも言わなかった。言っていれば。事件の事は。。。
でも 社長は言っていた。凪は家族だからって。 家族が家族のお金を使う事は犯罪では無いって。
君のお母さんが今 具合が良く無くて寝たきりになってしまっている事も社長は、近所の奥さんたちから聞いて知っていたよ。それでも、一言も助けてって言わないんだ、彼はって。助けてって言える相手が一人も居なかった。助けてって言える家族に俺はまだなれてなかったんだって。だから、絶対に捕まえるな、罪に問うな。って。 だから、そこまで言われたら俺も何も言えないから、約束した。
だから、君の罪は問わない。
精一杯生きろ 。 社長から君への最後言葉だ。
じゃあ、俺はやつらのアジトを探しに行く。君たちはパトカーで送らせるから。では」
敬礼してその刑事は出て行った。
終
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