高校に入学して 半年
車の免許を取る教習所に通う為に
初めてのバイトの面接に行く
面接と言っても
近所の 八百屋さんなので
顔見知りっちゃ 顔見知りだけど
制服の ネクタイをきっちりと締め
いつも お釣りを100万円くれる社長と面談した
その八百屋は
駅からは 徒歩だと 20分ぐらいかかる
市の丁度真ん中あたりにあって
利便性は悪い癖に
社長が朝早くから 市場に仕込みに行った野菜を
とことん安く売っているから
お客さんが引っ切り無しに来ることで 有名だった
うちは その近所の団地
まだ小学生の弟と 幼稚園の妹がいるから
親から 教習所のお金を貰えるような境遇では暮らしておらず
高校も近所の都立を選択した
他の高校に行くことも進められたが 歩いて5分圏内なら
ギリギリまで寝てられる
高校を出て 団地を北に通り過ぎて 7分ぐらいで その八百屋さんがある
昔は 隣に 魚屋さんと 肉屋さん 寿司屋と中華屋があったけど
今では そこから 100mぐらい離れたとこに
ぽつんと立ってる 鰻屋さんしか 無くなってしまった
でも 高いから 近所でも食べた事は無いんだけど
なんで 団地の目の前の コンビニにしなかったかは
みんな 同じ考えでわかると思うけど
さすがに 毎日 家族が通るところで 働くのはちょっと
我が家は 野菜農家をやってる父親の田舎から
毎月のように 大量に野菜が送られてくるから
母親が来ることも それほど無いし
田舎が 農家って事で 野菜には少しだけ詳しいから
それも あって 初の バイトは 八百屋さんにした
3代目の 社長は60代 後半
奥さんと 2代目の若社長と その奥さん
若奥さんが もうじき出産で 育休になるから
一人バイトを 雇うって 事で 張り紙を出したらしい
それを たまたま 中学の連れが見て
連絡をくれて速攻電話した
なにぶん みんなのように 原チャリも持ち合わせていない
俺は 歩いていけるバイトだけにターゲットを絞っていたから
電話して直ぐに 身バレしたので 即採用
かと 思ったら
先に電話かけてきた人がいるから
一応 面接することにするって
面接だけど 少し世間話をして 一通り 作業の流れを聞かされた
作業と言っても 山積みになった 野菜の箱を
売れて 空になった物から 潰して
段ボール置き場に重ねるのがほとんどの仕事
お金の勘定は 社長一家と 2年間バイトをしてる
近所の私立高校の3年生の 片岡君だけで
他に 後2人 高校生のバイトがいるけど
3年になって 受験の為にほぼ来ていないらしい
なので他のバイトはお金は触ってはダメというルール
以前 バイトの持ち逃げがいて その対策の為だって
言ってた
見た事ある人も居るかもしれないけど
八百屋さんには 天井から紐とゴムで吊るされたザルにお金が入っている
そのザルに お客さんから貰った 代金を入れ その中からお釣りを渡す
普通のお店のレジが 宙に浮いている状態
それが 今でも この八百屋にはあって
そこに 結構なお金が入っているから
そんなルールになったらしい
広さも コンビニぐらいある八百屋で
引っ切り無しにお客が出入りしているから
そんな ザルにお金が大量に入っているのを見ると
邪な気持ちが浮かんでしまうのもわかる気はするが
それ以外の仕事は 来た時に 見て覚えるか
周りの人に聞いてくれって
バイトに来る曜日も 時間も 来れる時でいいし
来たら 必ず タイムカードを押してくれって
じゃないと 来たか来てないか いちいち覚えてられないのが理由らしい
そう言って 座った時に頂いたけど 開けていなかった
ペットボトルのお茶を手渡され
お店の中を 一周
制服は禁止だから 必ず着替えて来るか
ここに来て 裏の 段ボール置き場の横の 物入れの中に入ってる
ドカジャンを着て ズボンは 前掛けを巻く事
その前掛けの付け方を教わっているときに
私立高校3年の 片岡君が 出勤してきた
私立なのに八百屋でバイトなんて って勝手に
メガネの横分けを想像していたけど
少し 茶髪の パーマがくるんとしてて
これで スポーツ万能だったら
この市の女子高生が 列をなして 野菜を買いに来ちゃうなと思わせるほど
端正な顔立ちに スラっとしたスタイルをしていた
軽く会釈をすると 社長と今日の 売れ物商品を聞き
さらっと声掛けの打ち合わせをして
歩きながら前掛けを巻いて
売り場に去って行った
社長の話が一通り終わり
「聞きたい事 ある?」
「いや 特に無いです」
の会話で
「じゃあ 明日から よろしく 田中聡君 聡って呼ぶってみんなに言っておくから。
ついでにさっきの イケメン高校生が 片岡凪咲。 女の子みたいな名前だろ」
「だから あんなイケメンになっちまったのか、あいつはみんな凪って呼んでるから。
来たらとりあえず 凪に何すればいいか 聞いて」
「あっ 。 採用って 事ですか?」
「あ~電話で言った彼も 採用することにしたんだけど、 せっかくの縁だから
2人採用するぞって 昨日 晩飯の時に 家のやつらには言ってあるから。採用。じゃあ聡よろしくっ」
そう言うと そこそこ黒くなっていたバナナを「持ってき。甘くなってるぞ」
と言って一房渡し 社長は居なくなった
続く
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