ハンカチ落とし

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僕が住んでいた町は 都よりの都下で

僕の住んでいた 工場地帯には 幼稚園も学校も無く

住んでいる住所は都下でも

義務教育は 区の学校に通っていた

それでも 誰かにいじめられるとかも特に無く

仲のいい友達も沢山出来た

中学を卒業後 高校に進学

小さな工場を経営していた父親の後を継ぐために

工業高校を選択

卒業し 修行の為に 父の知り合いの工場で5年務めた

父親が肺炎を患って 入退院を繰り返していたころ

1通の 手紙が届いた

中学の同窓会

駅ビルの居酒屋を貸し切って

先生なども招いて盛大にやるらしい

今の状況で 父親にそんなこと言えるはずもないし

しばらくほったらかしにしていた

その後すぐに  平日の昼間に 銀行の職員が

父親の様子を見に来た

同級生の田中だった

工場の再建の為に 銀行の融資を受け 新しい機会を入れた矢先に

入院した父親を  債権を気にして

お見舞いに来た様子だった

この時代 工場は 自分が寝る時間を惜しんで部品を作って 納期に納品分を収めても

とても家族3人が食べていけるほどの 利益にはならなかった

大手の工場では ロボットが24時間稼働し 正確に物作りをし安価に売られる

技術もスピードもとても敵わないのが現状だった

ある一定の 会社間の話をし

田中は 同級生モードに入り

同窓会に一緒に行こうと誘われた

その状況で 出された議案に 断れるわけも無く

僕は から返事で 約束をしてしまった

当日

スーツに着替え 田中との待ち合わせ時間に駅に行く

すると 駅前の噴水の前には人だかりが出来ていた

店に入り お互いが 名前当てをするぐらい

この年齢になると 風貌が変わった物も多い

仲の良かった 落合と鈴木の隣に 田中と座った

落合は 直ぐに僕に気が付いたが

鈴木はしばらく 分からなかったようだ

それもそうで

この3人は 中学を卒業後

大学の付属高校に入っていたから つい最近まで同級生

他のクラスメイトもほとんどがその高校に進学していたから

珍しいのは僕ぐらいだった

会が始まると 乾杯の挨拶に 

当時の主任だった 坂本先生が前に立った

坂本先生は 挨拶の途中に 何度も落合の学生自分の出来の良さを

引き合いに出し みんなを頷かせていた

しばし談笑した後

落合が今 教育委員会の 良いポストにいる事

父親が区議会議員だったことを始めて知った

目の前に座る 田中は大手銀行に勤めていて

鈴木は 父親の後を追い大学病院で外科医のインターン中らしい

周りの クラスメイト達も 上場企業や弁護士 官僚になった物もいた

そんな話をしている最中

鈴木が 僕に言った

「 小学校の時から思っていたけど 

なんで おまえ この学校に通っていたんだ? 」

「そうそう なんでここにしたの? その地域に住んでるやつは大概越境して隣の市の学校に通っていただろ」

落合も話に乗って来た

数年前に 僕もその事をふと思い 父親に聞いた事があった

父曰く 

工場地帯の子供たちは 大通りの反対に渡った幼稚園に通うのが普通だった

でも 幼稚園に通わせるお金も無い 僕の両親は その市の小学校に通うようになると

すでに幼稚園で出来たグループに入る事もままならずいじめにあうのでは無いかと思って

大通りの反対の 区の小学校に通わせた

幸い  市の教育委員会のルールでは どちらを選んでもいいルールになってはいたので

ただ 住民たちが 勝手に判断をして 区の小学校に通わせる親はほとんどいなかった

その小学校の周りには 有名な大学の付属幼稚園も多数あり

そのエスカレーターの座席争いに負けた者が通う 学校だった

だからといっては変だが 小学生の時は なんの違和感も感じていなかった

中学に入って 進路を決めるあたりで  

父の工場の話をした時に初めて  ちょっとした嫌悪感を受けた印象はあったが

今の今まで こんな風に思われて6年間過ごしていたなんて 思いもしていなかった

僕もクラスメイトもなんら変わらない子供で

工場の手伝いがあったため

たまにしか放課後遊ぶような事は無かったから

気がつかなかったのかもしれないが

今 辺りを見回せば 十二分にそれはわかる

医者や官僚 教師や弁護士

区議や銀行員と 工場で鉄の成型をしている自分

酒が回って来たのか 頭の中がグワングワンと回っているようだった

次にスピーチに立ったのは 生徒会長だった本橋だった

彼は次の衆議院選挙に立候補予定だそうで

現在 検察庁に務めている

学生の頃 少しだけヤンチャだった

現役刑事の 片野坂を 名指しで叱咤するあたり

権力の重たさは計り知れない

僕はその空間に その感じに なんだか

今までの人生が 本物だったのか疑った

あまりにも違う 周りの人間に

これでもかと言うほどの 孤独感を感じ

家に着くなり 思いっきり 大声で泣いた

今までの 自分の青春を 思い出を 人生を悔いた

それから 数か月後

父親の葬儀が終わった後に

銀行の田中が 家を訪ねてきた

結論から言うと 

銀行としては 融資を打ち切りたいと

父の名前 功績を重んじて

弾いた融資の金額なので 

これ以上は 貸せないと

それに伴い 新しく揃えた 機械や資材は

銀行の抵当に入り 

借りた金を返済出来ない場合は それらを売って

債務費に充てるとの通達だった

田中から 数日の猶予を貰った僕は

母を母の妹の住んでいる母の実家に送り届け

誰も居ない

静かな工場に戻って来た

父のはめていた革手 溶接に使うゴーグル

思い出の詰まった この工場を 

父が祖父から受け継いだこの工場を

こんな簡単に諦められるわけが無い

5年間の 丁稚奉公の際

万が一を考え 保険に入っていた

死亡保険金が入れば

返済の足しにはなるはずだ

母親にその後を全て託して申し訳ないが

それ以外の手段が 浮かばない

工場の母屋の鉄骨に括り付けた 麻紐を首に巻き付け

工場をぐるっと見渡した

幼い頃からの想いで プレス機を手慣れた手つきで動かす父

お昼になると 笑顔で呼びに来る母親

様々な思いが巡る

その時 

工場の  電話が鳴った

何度もなる着信音 

直ぐにFAXに切り替わる

と思っていたが

FAXの調子が悪いのか

FAXに変わらず留守電に切り替わった

「 もしもし 私 JAXAの遠藤と申します。 御社の円柱の部材の件でご連絡させていただきました。

御社の部材をどうしても宇宙ステーションで使いたいと この度正式にNASA宇宙局から連絡がありましたので

取り急ぎお電話させていただきました。 プツッ   」

首を縛り付けて麻紐が スルッと 抜け落ちた


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