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たった一言   

たった一言 聞ければ 

ただ    それだけでいい

東京の会社に 就職が決まってから

しばらく実家には帰れていない

最初の数年は 1週間に一度ぐらいは 

実家に電話して  会社の愚痴を 聞いてもらってた

だんだん 会社の同僚と仲も良くなっていくにつれて

当然 飲み歩くこともあるから  なかなか電話も出来なくなり

一週間に一度だった連絡も  月に一度程度になった

当然 会社から貰った 初任給で 

母さんの大好きな  東京の有名店の モンブランをたらふく送った

東京に来てから 1年が過ぎようとする頃

初めて 彼女が出来た

彼女は 会社の同僚で

端正な顔立ちで  物凄く気が利く子で 

なんでも丁寧に話すし  少しダメな俺をしっかり支えてくれた

そんな彼女と 数か月後には同じ場所から 出社するようになった

その頃には   便りが無いのは元気の証拠 

って 母さんも思ってくれてるだろうな 

なんて 自分に都合よく考えた

丁度 その頃  

世界中で蔓延する 細菌の緊急事態もあったから

帰りたくても帰れない   

なんて 全て自分の都合だった

でも こないだ  久しぶりに聞いた母さんの声は

どこか 元気が無く  何かを心配しているようだった

だから 言ったんだ 

今度 解除されたら 彼女を連れてそっちに行くからって

そしたら 母さん 

無理しないで 良いから 

自分の体を気遣いなさいって 

そんな話を 数か月後 

彼女にさりげなく さらっと 話した

そしたら 彼女は 聞いたことの無いような大きな声で

思いっきり僕を叱った

彼女には 母さんが田舎で一人で住んでいる事を

言っていなかった 

僕は 彼女に夢中で 

どうしても  一緒にいたくて

自分が 田舎者で

駅から 一山歩いて超えて行かないと

たどり着けない様な所が実家だなんて 言ったら

絶対に 将来を考えて貰えないと思ったから

思いっきり 怒鳴った彼女の声も

立ち振る舞いも

まるで 

母さんの様だった

その後 直ぐに携帯で 

実家に電話をかけた

親一人子一人の家族なのに 

一人にしてごめん 

って 謝ろうと思って 

他にもいっぱい話さなきゃいけない事がある

でも 

耳に充てた携帯電話からは

実家の電話のコール音しかしなかった

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